野球の不文律とは

まずは野球の不文律に関する基礎知識を紹介します。意味や形成された理由について、わかりやすく解説するので知っておきましょう。
ルールブックにない暗黙の了解
野球の不文律とは、公認野球規則やルールブックに記載されていない暗黙の了解のこと。アンリトゥン(書かれていない・記録していない)ルールとも呼ばれています。
野球における不文律は、日本プロ野球(NPB)やメジャーリーグベースボール(MLB)において、浸透している文化の一つです。日本プロ野球とメジャーリーグで共通している不文律もありますが、それぞれ独自のものも存在します。
野球の不文律が形成された理由
野球の不文律が形成された主な理由は、以下のとおりです。
- 円滑に試合を進めるため
- 選手の尊厳を守るため
「勝負に負けた、もしくは負けそうな相手を貶さず、敬意を表すこと」が不文律の基本的な考え方。つまり、スポーツマンシップから生まれたものといえます。
一方で、多すぎる不文律に対して「本当に必要なのか?」「意味がないのでは?」と疑問の声も少なくありません。世代や状況によって解釈が変化していく不文律もあります。
野球の不文律:攻撃編

野球の攻撃では、ボールを打ったバッター(打者)が塁に進んで得点の獲得を目指します。攻撃に関する不文律はさまざまな種類があるので、確認しておきましょう。
得点差の不文律
大量得点差(主に6点)がついた場合、盗塁やバントをしてはいけません。大量リードをした場面での1点を争うようなプレイは、相手への敬意にかけると考えられるためです。
また、メジャーリーグや日本プロ野球(2008年から)では、点差が大きく開いた場面では盗塁があっても記録を残しません。適用される点差は、公式記録員が試合展開を確認しながら判断します。
ホームランの不文律
不文律では、ホームランを打ったあとの過剰なパフォーマンスを禁止しています。具体的には、以下のような行為です。
- 立ち止まって打球の行方を追う
- バットを上に投げるバットフリップ(バット投げ)をする
- 大げさにガッツポーズする
- わざとゆっくりとダイヤモンド(4つの塁を結んだ正方形)を回る
野球では、上記のような行為は挑発的とされています。一方で現在ではそこまで厳しく考えないことも多いため、バットフリップをしている日本人選手は少なくありません。
サインの不文律
相手チームのサインを盗む行為(サイン盗み)は、禁止されています。
- 捕手のサインを盗み見る
- 二塁走者がバッターにサインを教える(NPB)
サインを盗まれると、どの球種を投げるのか把握されてしまいます。バッターにとってのアドバンテージとなり、相手チームへの不利益になることが禁止される主な理由です。
ただし、メジャーリーグの場合、三塁ベースコーチがサインを盗むことや、二塁ランナー(走者)がキャッチャー(捕手)のサインを盗むことは認められています。
日本プロ野球では、グラウンド外からのサイン盗みはルール違反です。状況によっては罰則がかせられることもあります。
打席の不文律
打席についての不文律には、以下のようなものがあります。
- 打席に入るとき球審や捕手の前を横切ってはいけない
- 完全試合・ノーヒットノーラン・投手タイトルがかかる場面でバントヒットを狙わない
- 二者連続本塁打後の初球は打ちにいかない
- ピッチャーに話しかけない
- 引退試合のピッチャーには空振り三振する(NPB)
集中の妨げになるため、ピッチャー(投手)に話しかけるのはタブーとされています。また、日本プロ野球では、引退するピッチャーに対してバッターが意図的に空振り三振することで、引退する選手に花をそえるという慣習もあるようです。
マウンドの不文律
マウンド(投手が投球する区域)での不文律をまとめました。
- ランナーがアウトになってダグアウトに戻るときマウンドを横ぎらない
- 相手ピッチャーの投球練習中にはダートサークルに入らない
野球におけるダグアウトとは、監督・コーチ・控えの選手がいるベンチのことです。ダートサークルは、本塁を囲むように設けられた円形の土(ダート)のことを指します。
野球の不文律:守備編

野球では、それぞれのポジションについて守備をするのがルールです。日本プロ野球とメジャーリーグでそれぞれ独自の不文律があるので、違いに注目してください。
- 三振やスリーアウトで過度なガッツポーズはしない
- 死球を当てても謝らない(MLB)
- 打者の引退試合では甘いコースに直球で投げる(NPB)
- 相手投手がマウンドにたったとき内角攻めをしない(NPB)
日本プロ野球でピッチャーに対する内角攻めを禁止しているのは、怪我を防止するためです。メジャーリーグではバッターボックスにピッチャーが立つことはほぼないので、この不文律はありません。
野球の不文律:その他編

野球におけるプレー以外の不文律をまとめました。乱闘と行動にまつわる不文律を、それぞれ紹介します。
乱闘の不文律
選手同士で激しい口論や殴り合いが発生する乱闘が起こった場合、以下のような不文律があります。
- バット・ボール・ヘルメットなど道具は使用しない
- 相手を強く蹴ったり殴ったりしてはいけない
- 乱闘が起こったときは、選手全員でベンチやブルペンを出て向かわなければいけない
乱闘では、選手生命が絶たれるような暴力行為はすべて禁止されています。ただし近年では乱闘の原因となる死球数が減ってきたことや、選手同士の交流が増えてきたこともあり、乱闘が起こるケースは減ってきているのが現状です。
すべての選手がベンチやブルペンを出ることに関しては、乱闘を制止する意味もあります。
行動の不文律
プレーや試合以外の行動にも不文律があります。
- 相手チームの選手がダグアウトに落ちても手助けしない
- 公衆の面前で同僚の選手を批判しない(MLB)
- 最終順位に関わる最終戦に引退試合を設定しない(NPB)
- 日本シリーズ中はグラウンド外で揉め事をおこさない(NPB)
ダグアウトはグラウンドより一段低い場所にあるため、野手がファウルボールを追って落下することも少なくありません。そのとき相手選手への手助けをしてはいけないという不文律があります。
野球で不文律を破るリスク

では野球の不文律を破った場合は、どうなるのでしょうか。具体的なリスクと、問題点についてまとめました。
故意死球などの報復がある
野球で不文律を破ると、違反した選手やチームの主力選手が報復にデッドボール(死球)を受ける可能性があります。非難の意思を表し、不満や憤りをはらすことが目的です。
報復のための意図的なデッドボールであっても、頭など命にかかわる場所を狙うのは禁止されています。また、メジャーリーグでは、同僚や監督を報道陣の前で批判したことで試合に出られなくなるなど、チーム内での報復もあるようです。
怪我につながるなど批判の声も
不文律の報復では、強烈なデッドボールが身体に当たります。強い痛みがあるのはもちろん、青あざなどの怪我は避けられません。
周辺の筋肉が硬直することで、故障のリスクも高まります。長期離脱につながる可能性もあり、ファンからは批判の声が挙がることも。
スポーツマンシップを追求するための不文律が選手を傷つける結果につながるのは、本末転倒といえます。
野球の不文律を把握して試合を観戦しよう
野球の不文律とは、規則やルールに記載されていないいわゆる暗黙の了解のこと。さまざまなシーンで適用されていて、日本プロ野球やメジャーリーグ独自のものもあります。
「相手チームやチームメイトに対して敬意を表し、マナーを守って試合に臨もう」という考えから生まれたのが不文律。一見すると不可解と思えるような行動にも、深い意味があります。不文律を知っておくことで選手の行動に対する納得感が高まるので、試合観戦の前に確認しておきましょう。
ENSPORTS fanでは、野球観戦をたくさんの方々に楽しんでいただくために、観戦マナーや観戦初心者のためのルール解説記事なども公開中。そちらぜひチェックしてみてください。