野球のピッチャーは、重要な役割をもつ特別なポジションです。多彩な球種によるピッチャーとバッターと1対1の勝負は、野球の見どころの一つといえます。 本記事では、野球のピッチャーの投げ方と球種の種類をまとめました。ピッチャーに求められる能力や関連する用語とあわせて紹介するので、ぜひ参考にしてください。

野球のピッチャーとは

野球 ピッチャー 投手

野球のピッチャー(投手)について、基礎的な知識を解説します。役割や基本のルールを以下にまとめました。

バッターにボールを投げる選手

ピッチャーは、守備のときバッター(打者)に向かってボールを投げる選手です。球種やコースを投げ分け、バッターからアウトをとります。登板するタイミングによって、以下に分類が可能です。

先発投手最初に投球する投手
中継ぎ投手先発投手の後を任される投手登板のタイミングは決まっていない
抑え投手(クローザー)勝っている試合で最後に投げる投手

ランナー(走者)の盗塁や進塁を防ぐために、塁にいる野手に牽制球を投げるのも重要な役割です。キャッチャー(捕手)と2人でバッテリーとよび、その関係は夫婦に例えられることがあります。

ピッチャープレートから投球する

内野の中心にある盛った土(ピッチャーマウンド)の上にある白い板が、ピッチャープレートです。ピッチャーからキャッチャーまでの距離は、18.44mと規定されています。

ピッチャープレート(投手板)に触れた時点で、ピッチャーとみなされるルールです。スパイクなど体の一部でピッチャープレートに触れている必要があり、離れると野手としてのプレーになります。

ピッチャーに求められる能力

ピッチャーに求められる能力はさまざま。優れたピッチャーがもつ能力について、くわしく解説します。

肩の強さ

ピッチャーが早い球を投げるためには、肩の強さが必要です。ボールリリースからキャッチャーに届くまでかかる時間が短縮されるので、バッターは瞬時に対応しなくてはいけません。

さらにボール速度の調整幅が広がり緩急をつけられるため、バッターに対して優位性を確保できます。

コントロール力

ピッチャーには、狙った場所にボールを投げるコントロール力も求められます。狙ったコースに投げ分けることでバッターを翻弄するほか、フォアボール(四球)を減らすなど、ミスによる出塁を防げるはず。

また、コントロールとあわせて、複数の球種を投げ分ける能力が必要です。バッターに与える選択肢を増やすことで、打たれる確率を減らせます。

リズムを読む力

変化球・コースや緩急により、相手のタイミングやリズムを狂わせます。間を開けずにすぐ投げたり、遅延行為にならない程度に投球を遅らせたりするのも、戦略の一つです。

日本プロ野球(NPB)の20秒ルールやメジャーリーグ(MLB)のピッチクロックなどのルールに合わせて、規定された時間内でいつ投げるか判断します。試合の流れを読む駆け引きは、観戦している方もハラハラできるはずです。

下半身の強さ

下半身が安定すると、重心移動がスムーズにおこなえます。球速のアップやコントロールが定まりやすくなるため、トレーニングはかかせません。多くのピッチャーは、筋肉をつけて体幹を鍛えるトレーニングに日々励んでいます。

野球におけるピッチャーの投げ方

野球のピッチャーによって投げ方(ピッチングフォーム)は異なり、中には独特のフォームをとる選手も。基本的な4種類の投げ方を紹介します。

オーバースロー

クラブ側に体を傾け、頭より高い位置から投げ下ろすピッチングフォームです。球速がでやすく、角度のあるボールを投げられます。

力が入りやすい一方で力みやすく、コントロールがしにくいといったデメリットも。腕を高く上げるため、肩や肘など体にかかる負担は大きくなります。

サイドスロー

投げる方の手に体を傾けて、地面と水平方向に横から投げます。横回転の変化球に適していることと、ボールの出どころがわかりにくいことがメリットです。

ボールに横回転がかかることで空気抵抗を受けやすく、球速が落ちる傾向があります。横から投げるピッチングフォームなので、縦に落ちる変化球には向いていません。

スリークォーター

オーバースローを垂直、サイドスローを水平としたとき、肘の角度が4分の3になることが名前の由来です。直立したときとほぼ同じ体軸なので体に負担がかかりにくく、コントロールがしやすい特徴があります。

スタンダードな投げ方で、日本人ピッチャーに多いピッチングフォームです。シュート回転がしやすく、ストレートを投げたときに回転がかかることがあります。

アンダースロー

腰を曲げて体を倒した状態になり、地面の近い位置から投げます。アンダースローのピッチャーは少なく、慣れていないバッターが多いのが特徴。浮き上がるような独特な軌道は、多くのバッターにとって打ちにくいものになります。

下から上に投げるとき重力がかかるため、球速はあまりでません。独特のピッチングフォームは動作が大きいので素早く動くことができず、ランナーに盗塁を狙われやすくなります。

野球におけるピッチャーの球種

野球におけるピッチャーの球種は、大きく分けて6種類に分かれます。軌道についてまとめました。

ストレート系

変化せずに真っ直ぐと進むボールがストレート系です。

ストレート(フォーシーム)回転数が多く球速がもっとも早いとされる
ワンシームストレートと似た軌道で利き腕方向に少し沈む
ツーシームストレートと似た軌道で利き腕方向にほんの少し沈む
ジャイロボール回転軸が進行方向と一致することで伸びて見える

ストレートは、もっともスタンダードな球種。バックスピン(上方向の縦回転)をかけることで、ボールの上側と下側に圧力差が生じてボールが浮き上がるマグヌス効果が発生し、球速が落ちるのを防げます。プロ野球における球速は、初速(手から離れた直後の速度)で130 km/h~165 km/hです。

カーブ系

カーブ系は、ピッチャーの利き腕と逆方向に大きく曲がって落ちる球を指します。

カーブ利き腕と逆方向へ大きく曲がる
パワーカーブ(スパイクカーブ)通常のカーブより球速が早く鋭く曲がる
スローカーブ通常のカーブより球速は遅く大きく曲がる
ナックルカーブ通常のカーブより縦方向に大きく落ちる
ドロップカーブ通常のカーブより垂直方向に大きく変化する

基本の変化球で、多くのピッチャーはストレートの次に習得するのが一般的です。速度の早い球との速度差でバッターのタイミングを外すために、よく使用されます。

スライダー系

ピッチャーの利き腕と逆方向に大きく曲がる球です。球速が遅く自然に曲がるカーブ系と違い、球速が早く手元で急速に曲がります。

スライダー利き腕と逆方向に大きく曲がる
高速スライダー通常のスライダーより球速が早い
カットボール球速が早く手元で小さく鋭く変化する
スイーパー通常のスライダーより横方向に大きく曲がる
縦スライダージャイロ回転によって垂直に落ちる

カーブほど変化しませんが、急激に軌道が変化するためバッターに見破られにくい傾向があります。高速スライダーやカットボールは、ストレートとの球速差がほとんどありません。

シュート系

シュート系は、右ピッチャーなら右に、左ピッチャーなら左に変化します。

シュートピッチャーの利き腕方向に曲がる
高速シュート通常のシュートより球速が早く変化が大きい

回転軸の違いにより、曲がりつつ沈むものと、縦にほぼ変化せず横に曲がるものに分かれます。バッターの芯を外しやすく、ゴロをつまらせたりファウルボールを打たせたりするのに有効です。

シンカー系

シンカー系は、ピッチャーの利き腕方向に曲がり、バッターの近くで沈む球種です。

シンカー利き腕方向に曲がってバッターの近くで落ちる
高速シンカー通常のシンカーより球速が早く鋭く落ちる
サークルチェンジ通常のシンカーより遅くストレートと同じ振りで投げられる

シュートと似ていて、ゴロを打たせて打ち取るのに適しています。投げ方の特性によって、サイドスローのピッチャーに対して投げやすいのが特徴。なお、海外ではシンカーのことを「スクリュー」と呼びます。

フォーク系

フォーク系は、バッターの手前でボールが急速に落ちるように変化します。

フォークバッターの手前で縦に落ちる
スプリットフォークより早く小さく落ちる
チェンジアップ通常のフォークより遅くストレートと同じ振りで投げられる
高速チェンジアップ通常のチェンジアップより球速が早い
パーム通常のフォークより遅く変化が大きい
ナックル通常のフォークより遅く左右に揺れながら不規則に変化する

アメリカでの呼び方は「スプリッター」です。三振をとるための決め球になる一方で、暴投になりやすいデメリットがあります。

野球のピッチャーに関する用語を解説

野球のピッチャーに関する用語をまとめました。それぞれの意味について、わかりやすく解説します。

防御率

野球の防御率とは、ピッチャーがどれくらい失点を抑えられたかを表す数値です。規定イニングを投げたとき、平均していくつ失点するのかわかります。

失策(エラー)や捕逸(パスボール)が絡まない、投手が責任を追うべき失点(自責点)を基準に計算。計算式は「自責点×9(イニング数)÷投球回数」です。

防御率の数値が低いほど、成績が優れたピッチャーとされます。

サウスポー

サウスポーとは、左投げのピッチャーのことです。左バッターに有利とされていて、ワンポイント(打者1人を抑える限定的な投手)で登板するケースがよくあります。

一塁に対面する形で投球するため、一塁ランナーに牽制するときプレッシャーをかけやすい利点も。ちなみに右と左の両方で投げられるピッチャーは、スイッチピッチャーとよばれます。

本格派投手と技巧派投手

本格派と技巧派の違いは以下の通りです。

本格派投手剛速球と変化球で奪三振を狙うパワーピッチャータイプ
技巧派投手多彩な変化球と制球で打たせて捕るコントロールピッチャー

この2つはPFR(Power/Finesse Ratio)、(奪三振+与四球)÷投球回数の数値によって分類でき、数値が高いと本格派、低いと技巧派と見なされます。野球観戦をするときは、ぜひピッチャーのタイプに注目してください。

20秒ルール

日本プロ野球のルールでは、ピッチャーはキャッチャーから返球を受けて20秒以内に投球をしなければいけません。20秒を超えて投げないなどあきらかな遅延行為があれば、ボールと判定される可能性があります。

反則投球

反則投球はピッチャーの投球に関するルールです。異物をボールに付着させる、ボールにキズをつけるなどの反則行為が定められています。ランナーがいる状態だとボークが、いない状態だとボールがペナルティです。

ボーク

ボークは、投球や塁に送球するときに発生するピッチャーの反則のこと。投球動作を途中で止めたり、遅延行為をおこなったりと、13種類の行為が該当します。ボークのペナルティとして、塁上にいる各ランナーに安全進塁権があたえられるのがルールです。

野球観戦ではピッチャーの投球に注目しよう

投げ方や投げられる球種は、ピッチャーによって異なります。独特のピッチングフォームの選手やより個性的な投球を操る選手もいるので、個性に注目しましょう。

投げ方や得意の球種をチェックすれば、気になるピッチャーについてより深く理解できます。ピッチャーごとの個性を把握することで、野球観戦をさらに楽しめるようになるでしょう。

ENSPORTS fanでは、野球観戦をたくさんの方々に楽しんでいただくために、観戦マナーや観戦初心者のためのルール解説記事なども公開中。そちらぜひチェックしてみてください。