サッカーの試合では、特定の事象のときにVARが使われることがあります。基礎知識や適用条件を把握しておけば、結果への納得感が高まるはずです。 本記事では、VARの基礎知識や適用される条件をまとめました。実施手順やあわせてチェックしておきたい関連用語と、一緒に解説します。

サッカーのVARはフィールド外で試合映像を確認している

VARは「ビデオアシスタントレフェリー」の略称であり、試合映像を観ながら主審をサポートする審判員のことです。主審1人と副審2人、第4審判員とは別にいて、フィールド外で試合映像を確認しています。

VARについて理解するための基礎知識を解説します。

意味や目的、使われる試合など、サッカー観戦に役立つ知識をまとめました。

VARの役割は主審のサポート

役割はあくまで主審のサポート。なので、すべての事象に介入するわけではありません。複数のアングルから試合映像をチェックして、必要なときだけ主審と無線で連絡をとります。

なお、VARの介入はアディショナルタイムの対象です。

VARは重大な間違いをなくすためにある

VARの目的は「最小限の干渉で最大の利益を得る」こと。

最良の判定をすることではなく、重大な間違いをなくすためにおこなうのです。そのため、明らかに間違いである場合以外は、VARが介入することはありません。

審判の誤審を防止できる一方で、試合の流れが止まる、観客の興奮が覚めるといったデメリットが指摘されています。

VARが使われない試合もある

サッカーでは、VARが使われる試合とそうでない試合があります。

VARは国際サッカー評議会(IFAB)が承認した組織・スタジアム・審判員に限り利用できるシステムのためです。

VARには複数台のカメラと高機能な機材が必要とされます。J1リーグの全試合では使用されますが、J2とJ3では導入されていません。

先述のとおりVARはアディショナルタイムに関わるため、試合時間観戦のタイムスケジュールに影響することも考えられます。サッカー観戦をするときは、VARが使われる試合なのかも確認しておくといいかもしれません。

VARが導入されたのは2016年から

VARは、まず2016年のアメリカの下部リーグで試験的に実施されました。

その後、同年9月のイタリア代表対フランス代表や、同年12月のFIFAクラブワールドカップ2016でも採用されています。

ワールドカップに初めて導入されたのは、FIFAワールドカップ・ロシア大会でした。

JリーグでVARが実施されたのは、カップ戦では2019年のJリーグYBCルヴァンカップのプライムステージから、リーグ戦では2020年の明治安田生命J1リーグから。1シーズンを通しての運用は、2021年から実施されています。

サッカーの試合でVARが適用される4つの条件

VARが適用されるのは「はっきりとした明白な間違い」または「見逃された最大の事象」があるときのみです。見逃された重大な事象とは、審判員が事象を確認できなかったケースが該当します。

また、VARが適用になったとしても、主審の判定は明確な間違いがないかぎりは変更されません。

サッカーの試合でVARを使用できる事象は以下の4つ。どのような条件でVARが適用されるのか、具体例をあげて解説します。

1.得点か得点でないか

  • 攻撃を組み立てている最中や得点時の攻撃チームによる反則があったか
  • 得点する前にボールがアウトオブプレー(フィールドから外にでる)になったか
  • 得点か得点ではないかの決定
  • PK(ペナルティーキック)のときゴールキーパーやキッカーによる反則がなかったか
  • PKのとき守備側の競技者がペナルティーエリアへ侵入してボールが跳ね返ったあとプレーに直接関与したか

得点までの過程を確認したうえで、得点したかそうでないかの判断のためにVARを使用するケースです。ゴールに入ったとしても、反則があれば得点にならないこともあります。

2.PKかPKではないか

  • 攻撃を組み立ててからPKが与えられるまで攻撃側のチームによる反則はあったか
  • PKが与えるべき反則が起こる前にボールがアウトオブプレーになったか
  • 反則をした位置がペナルティーエリアの内か外か
  • 誤ってPKを与えていないか
  • PKに該当する反則を罰しなかったのか

PK(ペナルティーキック)とは、ペナルティエリア内での特定の反則に与えられるフリーキックです。PKに該当する反則なのかVARで判断します。

3.退場か退場ではないか

  • 決定的な得点機会の阻止にあたるか
  • 著しく不正なプレーなのか
  • 乱暴な行為・人を噛む・人につばをかけるなどの行為があったか
  • 攻撃的・侮辱的もしくは下品な行動をとったか

VARを使ってレッドカードによる退場を提示すべきケースなのか判断します。2枚目のイエローカードによる退場は、対象にはなりません

。なお、決定的な得点機会の阻止にあたるかは、DOGSO(ドグソ)の4要件を満たしたかどうかが基準です。

4.警告・退場の人間違いはないか

主審が判定を下して、別の競技者にイエローカードもしくはレッドカードを提示した場合は、反則したのが誰なのかレビューできます。

ただし、得点やPK、退場に関わる事象以外の反則は、VARの対象にはなりません。

サッカー試合でのVAR実施手順

サッカー試合におけるVARの実施手順は以下の通りです。基本的な流れをご紹介します。

1.VARがテレビカメラ映像でチェックする

先述の4つの事象のどれかが発生した場合、VARは複数のアングルの映像やリプレーで該当シーンをチェックします。

「はっきりとした明白な間違い」もしくは「見逃された重大な事象」がない場合、主審に伝えることはありません(サイレントチェック)。

「はっきりとした明白な間違い」が「見逃された重大な事象」がある可能性があれば、VARがレビューを提案。なお、監督や選手がチェックやレビューを要求することはできません。

2.主審が情報を受け取りレビューをするか判断する

事象のチェックが必要なことをVARから伝えられた主審は、耳に手を当ててもう片方の腕を伸ばすシグナルで情報を受け取っていることを周知します。このときVARによって明確な間違いがないことが確認された場合、チェックは完了です。

VARがレビューが必要と判断したときは、主審にレビューをすることを提案。主審は1回目のTVシグナル(四角いTVモニターの形を示す)をして、VARの介入を周知します。

3.レビューを開始して最終判断を下す

主審はVARオンリーレビュー、もしくはORF(オンフィールドレビュー)をおこないます。

VARオンリーレビューVARからの情報のみで最終的な判断を下す
ORF(オンフィールドレビュー)主審自ら映像を観て最終的な判断を下す

レビューが終わったあとは、主審が2回目のTVシグナルを出します。必ず主審が判断を下して、結果を周りに伝えるのが基本の流れです。

なお、日本では主審がORFをおこなうとき、スタジアムのビジョンで同じ映像が公開されます。

サッカーの有名なVAR判定の実例

先述のとおり、VARはサッカーの試合において重要な判定をサポートし、誤審を減少させる役目を担っています。

VAR導入前、主審が下した判定の93%は正確であったとされていますが、VAR導入後には98.9%にアップしているそうです。

VARがサッカーの試合においてどれほど重要な役割を果たしているのか、事例をご紹介します。

2018年ロシアワールドカップ フランスvsオーストラリア

この試合は、VARが初めて得点に直結した瞬間として記憶されています。

フランスのアントワーヌ・グリーズマンがペナルティエリア内で倒された際、主審はファウルを見逃してしまいます。しかし、VARが介入し映像を確認した結果、ペナルティキックが与えられました。

グリーズマンがこのPKを決め、フランスは試合を優位に進めることができました。この判定は、VARの導入がもたらしたポジティブな影響の一例として広く認識されています。

2018年ロシアワールドカップ ブラジルvsコスタリカ

2018年のロシアワールドカップでブラジルがコスタリカと対戦した際、ネイマールがペナルティエリア内で倒されたと見なされ、PKが与えられました。

しかし、VARが介入して映像を確認した結果、ファウルはなかったと判断。判定が覆されています。

この出来事は、VARが選手のシミュレーション行為を見抜く能力の一例として注目されました。

2022年FIFAワールドカップ 日本vsスペイン

VARの判定事例として日本でもっとも有名なのは、2022年FIFAワールドカップカタール大会の日本対スペイン戦。

当初、主審は三笘選手がボールを蹴る際にボールがゴールラインを越えたと判断し、ゴールキックを指示しました。

しかし、VARによる確認の結果、ボールがライン上にわずかにかかっていることが確認され、得点が認められたのです。

この通称「三笘の1ミリ」は、VARの役割と試合の結果に大きな影響を与えるということを、日本中に周知するきっかけとなりました。

VARとあわせて確認しておきたい関連用語

VARと関連する用語をまとめました。VARとあわせてチェックすることで、より理解度が深まります。

VARオンリーレビュー

映像から客観的な事実が確認できるケースでは、VARからの情報だけで主審が最終判断を下します。第3者が見れば誰もが同様の判定を下せるかどうかが判断基準です。たとえばオフサイドがあったか、ゴールラインを割ったかなどが該当します。

ORF(オンフィールドレビュー)

ORF(オンフィールドレビュー)では、主審が自らレフェリーレビューエリアに行って映像をチェック。主観的な判断が必要なケースが該当します。たとえば選手同士がどのくらいの強さで接触したか、ボールが腕に当たったのは意図的かなどです。

オフサイドディレイ

VARが導入されてる試合において、オフサイドかどうかの判定を遅らせてプレーを継続させることです。オフサイドがどうか曖昧なシーンにおいて、判定ミスによる得点機会の喪失を防止します。「VARで中断したがオフサイドではなかった」といった事態を、防止することが可能です。

VARライト

VARライトとは、FIFAが正式導入に向けてテストを重ねている新しいVAR制度です。カメラの台数などを限定したVARの簡易版で、コストを抑えて導入できます。日本でもJ2・J3で導入が検討されており、より正確な判定が実現できるかもしれません。

サッカー観戦はVARにも注目してみよう

VARが導入されたサッカーの試合では、重大な誤審を防止できます。

より正確に判定することで「なんでオフサイドにならなかったの?」など、ルール上のモヤモヤを残さずにサッカー観戦を楽しめることでしょう。

ただし、VARは「はっきりとした明白な間違い」または「見逃された最大の事象」があるときのみ適用されます。具体的な条件を把握したうえで、サッカー観戦をしましょう。

また、ENSPORTS fanでは、VARに関するもの以外のサッカーの基本的なルールも、初心者にわかりやすくまとめてご紹介しています。ぜひそちらもチェックしてみてください。