公平性と安全性を守るため、ボクシングには細かいルールが定められています。 ルールを知ると、試合の駆け引きや選手の戦略がぐっと面白く感じられるようになります。 本記事では、プロボクシングとアマチュアボクシングの違いを中心に、階級・採点・反則・観戦ポイントまでを初心者にもわかりやすく解説します。 これから試合を観戦したい方は、ぜひ予習に活用してください。

ボクシングとは?まずは基本をおさらい

自分の拳で戦うシンプルな競技に見えますが、ボクシングには厳格なルールが存在します。
まずは共通する基本ルールから確認しておきましょう。

ボクシングの目的と基本ルール

ボクシングは、ラウンド中に相手を倒す(KO)か、採点で相手より上回ることで勝敗をつける競技。
試合中はグローブの装着を義務付けており、一部階級で異なりますが重さは基本的に10オンス(284g)です。

試合はラウンド制で行われ、各ラウンドの合間には「インターバル」を挟みます。

試合のラウンド数はその試合のランクによって異なり、世界タイトルマッチの場合は12Rまでです。

ボクシング ラウンド数とインターバル
ランク毎のラウンド数とインターバル

リングサイズの規格はプロとアマチュアでそれぞれ定められています。

プロボクシング リング
リングのサイズ規定【プロボクシングの場合】

プロボクシングのほうが若干広めになっていますが、リングの高さなどはプロアマ共通です。

攻撃できる部位と禁止エリア

ボクシングで攻撃が認められる範囲は、腰から上の正面部分のみです。腰のベルトラインより下への攻撃は、有効打にはなりません。

背中、後頭部、下腹部などへの攻撃は反則。レフェリーが危険と判断した場合は警告が与えられ、繰り返されれば失格になることもあります。

安全のため、ルールは非常に厳しく運用されています。

ボクシングのルールはアマチュアとプロで異なる

ボクシングには「プロボクシング」と「アマチュアボクシング」があり、目的もルールも少し異なります。
観戦する際には、この違いを理解しておくとより楽しめるでしょう。

プロボクシングとアマチュアボクシングの違い

アマチュアボクシングプロボクシング
競技内容技術を競う興行として収益を上げる
ルールIBA(国際ボクシング協会)が定めた統一ルール団体(WBA・WBCなど)ごとに一部差異あり
試合一堂にかいして同じ場所で戦う両者の合意で試合日を決定
最終目標オリンピック優勝世界王者(チャンピオンベルトの獲得)

アマチュアボクシングは「技術点」を競う競技、プロボクシングは、「魅せる戦い」を重視します。

ただし、アマチュアで活躍したボクサーがプロに転向するケースも多く、どちらも重要なキャリアステップです。

共通する基本ルール

プロボクシングとアマチュアボクシングは、どちらも同じ階級のボクサーが1対1で戦い、規定ラウンド内に相手を戦闘不能(KO)にすれば勝利。

制限時間内に決着がつかない場合は、ジャッジによる採点で勝敗が決まります。

ボクシングのルール:階級編

ボクシングでは、体格差による不公平をなくすために「階級」を細かく設定しています。

同名の階級でもアマチュアとプロでは体重範囲が異なることがあるため、あらかじめ確認しておきましょう。

アマチュアボクシングの階級(男子・女子)

名称男子女子
スーパーヘビー級91kg超なし
ヘビー級81~91kg81kg超
ライトヘビー級75~81kg75~81kg
ミドル級69~75kg69~75kg
ウェルター級64~69kg64~69kg
ライトウェルター級60~64kg60~64kg
ライト級56~60kg57~60kg
フェザー級なし54~57kg
バンタム級52~56kg51~54kg
フライ級49~52kg48~51kg
ライトフライ級49kgまで48kgまで

アマチュアボクシングを総括する国際ボクシング協会(IBA)では、男子と女子でそれぞれが10階級を設定しています。

ただし、オリンピックなど国際大会では階級設定が異なり、同じ階級名でも体重範囲が違ったり大会ごとに階級が調整されていることも。観戦前に確認しておくことをおすすめします。

プロボクシングの階級

階級男性女性
ヘビー級90.719kg(200lb)超79.379kg(175lb)超
クルーザー級90.719kg(200lb)以下ーーー
ライトヘビー級79.379kg(175lb)以下79.379kg(175lb)以下
スーパーミドル級76.204kg(168lb)以下76.204kg(168lb)以下
ミドル級72.575kg(160lb)以下72.575kg(160lb)以下
スーパーウェルター級69.853kg(154lb)以下69.853kg(154lb)以下
ウェルター級66.678kg(147lb)以下66.678kg(147lb)以下
スーパーライト級63.503kg(140lb)以下63.503kg(140lb)以下
ライト級61.235kg(135lb)以下61.235kg(135lb)以下
スーパーフェザー級58.967kg(130lb)以下58.967kg(130lb)以下
フェザー級57.153kg(126lb)以下57.153kg(126lb)以下
スーパーバンタム級55.338kg(122lb)以下55.338kg(122lb)以下
バンタム級53.524kg(118lb)以下53.524kg(118lb)以下
スーパーフライ級52.163kg(115lb)以下52.163kg(115lb)以下
フライ級50.802kg(112lb)以下50.802kg(112lb)以下
ライトフライ級48.988kg(108lb)以下48.988kg(108lb)以下
ミニマム級47.627kg(105lb)以下47.627kg(105lb)以下
アトム級ーーー46.266kg(102lb)以下

プロボクシングの場合は、男女ともに17階級に分かれています。男女ともにおおむね体重範囲に違いはありませんが、男子にはアトム級、女子にはクルーザー級が存在しません。

また、WBCやWBAなど多くのプロボクシング団体がありますが、階級に関するルールは基本的に統一されています。

ボクシングのルール:試合形式

アマチュアとプロに分けて、試合時間とラウンド数をまとめました。試合形式の違いを、チェックしておきましょう。

アマチュアボクシングの試合形式

アマチュアボクシングの試合形式

  • 1ラウンド:3分

  • ラウンド数:3回

  • インターバル:1分

アマチュアボクシングの試合形式は、以下の通りです。

以前はラウンド数や1ラウンドの時間がバラバラでしたが、3分3ラウンドに統一されました。若年世代(18歳以下)は2分3ラウンドなど、年代によって違いがあります。

プロボクシングの試合形式

プロボクシングの試合形式

  • 1ラウンド:3分

  • ラウンド数:C級4R/B級6R/A級8R以上

  • 世界戦:12ラウンド

アマチュアと同じく1ラウンド3分でインターバル1分ですが、ラウンド数はプロライセンスの種類で異なります。日本におけるラウンド数のルールは以下の通りです。

公式サイトなどの興行の紹介で「4回戦」「6回戦」など記載があるので、あらかじめ確認しておきましょう。世界タイトルではかつては15ラウンドでしたが、現在は安全面を考慮して12ラウンドです。

ボクシングのルール:勝敗の決まり方

ボクシングの決着には複数のパターンがあります。アマチュアとプロにおける勝敗の決し方について、一覧でまとめました。

アマチュアボクシングの勝敗

アマチュアの勝敗は、以下のようなときに決まります。

KOダウン後10秒以内に立ち上がれない
RSCKO以外の理由で試合が継続できないと判断された
棄権本人が自発的に棄権したもしくはセコンドが棄権を申し出た
失格反則により対戦相手を試合続行不能に追い込んだもしくは3回警告を受けた
判定勝敗がつかないとき各ジャッジの得点で勝敗を決める
不戦勝一方がリング内に登場してアナウンス後1分たっても相手が現れない
再試合不慮のアクシデントで試合続行になったとき中断して再試合を行う

アマチュアではグローブが握りにくいため、KOよりも判定勝ちが多く、より技術点重視の競技となっています。

プロボクシングの勝敗

プロボクシングにおける勝敗の決め方を、まとめました。

KOダウン後10秒以内に立ち上がれない
TKOKO以外の理由で試合が継続できないと判断された
失格重大な反則もしくは反則を繰り返しても態度を改めない
判定勝敗がつかないとき各ジャッジの得点で勝敗を決める
負傷判定不可抗力でボクサーが負傷して試合続行不可能と判断された
リングアウトリングから転落した選手が20カウント以内に戻れなかった
ノーコンテストアクシデントで試合続行が不可能もしくは運営に重要なミスがあった

レフェリーやセコンドの判断で試合が止められた場合、どちらも記録はTKOとなります。

負傷判定は、規定のラウンドに達していれば採点で勝敗を決め、達していなければ負傷引き分けです。

ボクシングのルール:採点編

判定となったとき、採点で決着をつけるのが基本のルールです。プロとアマチュアでは採点基準が異なるので、違いを確認しておきましょう。

アマチュアボクシングの採点基準

勝っているボクサーに10点つける「10ポイント・マスト・システム」を採用。ラウンドごとに優勢な選手に10点、劣勢には減点したポイントをつけます。

採点基準は、以下の3つです。

  1. 有効打の質と数
  2. 技術・戦術の優位性
  3. 攻撃の積極性

採点するジャッジは5人制。規模の小さい大会は3人制もあります。基本的に引き分け(ドロー)の判定は存在しません。

プロボクシングの採点基準

プロも同じく「10ポイント・マスト・システム」で採点を行います。

採点基準は以下の4つです。

  1. クリーンヒット(有効打)
  2. アグレッシブ(攻撃性)
  3. ディフェンス(防御技術)
  4. リング・ジェネラルシップ(主導権の掌握)

クリーンヒットが優先され、アグレッシブやディフェンス、リング・ジェネラルシップの順番で順位がつきます。

ジャッジは3人制で、2人以上のジャッジが指示した選手が勝者です。

ボクシングのルール:反則編

ボクサーの安全を守るために、ボクシングにはさまざまな反則が定められています。どのような行為が禁止されているのか、ルールをチェックしてください。

プロ・アマ共通のおもな反則

アマチュアとプロだと、基本的な反則に違いはありません。主な反則は以下の通りです。

  • 頭突き(バッティング)
  • ホールディング(抱え込み)
  • ローブロー(下腹部攻撃)
  • ラビットパンチ(後頭部攻撃)
  • サミング(親指で目を突く)
  • レスリング行為(投げ技やタックル)

ほかにはブレイク(離れるように命じる)から試合再開前の攻撃やラウンド終了後の攻撃も、反則に該当します。

プロボクシングだと反則は減点対象で、警告が3回続くと減点や失格になることも。

アマチュア特有の厳格な反則

アマチュアでは「安全性」を重視し、より厳しい基準が設けられています。

  • 手を握らない状態で打つ(オープンブロー)
  • グローブの内側で打つ(インサイドブロー)
  • 一回転してから打つ(ピボットブロー)
  • 相手を引っ張って打ったり腕や頭を抱え込んだりする
  • ロープを握った状態で攻撃する
  • 寝転んだ状態からのレスリング行為や投げ技
  • 危険な状態からベルトラインより低いダッキング(体を屈めて相手のパンチを避ける)
  • ダウンした状態の相手を攻撃する
  • ブレイクを命じられたときに後退しない
  • レフェリーに対して攻撃的な態度をとる
  • マウスピースを故意に吐き出す
  • 腕を伸ばし続けて対戦相手の視界を妨げる

「不適切な攻撃姿勢を見せる」など、プロでは問題ない行為が反則になることも。これはプロは会場を盛り上げるパフォーマンスとしてある程度は見逃されますが、アマチュアでは反則行為なのです。

観戦初心者が知っておくと楽しいボクシングの見方

試合の見方をマスターすれば、ボクシング観戦はより楽しくなります。観戦初心者が知っておくべき事柄をまとめました。

試合を楽しむための注目ポイント3つ

  1. ジャブ:リズムを作る基本技。距離を測る重要なパンチ。
  2. 防御技術:ブロッキング・スウェーなど、守りにも見どころが多い。
  3. 駆け引き:フェイントや間合いの読み合いが勝負を分ける。

ボクシングの魅力は、高度な技術の応酬や心理戦が楽しめること。激しい攻防の裏にある戦略によって、勝敗が大きく左右されます。

上記のポイントに注目すれば、ボクサーの特徴やスタイルが見えてくるでしょう。

実況・解説でよく聞く用語をチェックする

ボクシングの実況・解説では、専門的な用語が飛び交います。よく耳にするのは以下の用語です。

  • ダウン:足の裏以外が地面についた状態
  • テンカウント:10秒以内に立ち上がれないとKO
  • クリンチ:相手に抱きつき、一時的に攻撃を止める動作

ストレートやジャブ、フックなどパンチの種類や、カウンター(反撃)やラッシュ(連打)なども、予習しておくとさらに面白いはずです。用語の意味を理解するだけで、実況・解説への理解度がアップします。

ルールを知ると選手の戦略が見えてくる

ボクシングのルールを理解しておけば、試合の見え方が大きく変わります。防御やフェイント、距離取りなど、ボクサーがどのような意図で動いているか把握しやすくなるはずです。

「なぜこの判定なのか」「どんな駆け引きが行われているのか」が分かることで、試合の奥深さが何倍にも増すでしょう。

ボクシングのルールを知れば試合が面白くなる

ボクシングのルールは、ボクサーの安全と試合の公平さを守るためにあります。一見すると複雑に思えますが、基本を知れば試合の流れが理解しやすくなるはずです。

戦術への理解度や判定への納得度が高まることで、観戦が何倍も楽しくなります。ボクシングの試合を観戦する前に、基本のルールをぜひ予習してください。