ボクシングを観戦していると、「WBC世界タイトルマッチ」や「WBA世界王者」といった言葉をよく耳にします。これら WBC・WBA とは、世界王者を認定する“ボクシング団体”のことです。 本記事では、世界主要4団体の特徴と違いや団体別の観戦ポイントなど、初心者でもわかるボクシング団体の基礎知識を紹介します。

ボクシングにおける団体とは?

ボクシングにおける「団体」とは、王座やランキングを認定し、試合ルールを管理する組織のことです。団体ごとにランキングが存在し、階級ごとに世界王者を決めています。

日本のプロボクサーは、JBC(日本ボクシングコミッション)が発行しているライセンスを取得し、各団体の試合やランキングに参加する仕組みとなっています。

現在、世界的に認められた主要団体は、次の4つです。

  • WBA
  • WBC
  • IBF
  • WBO

つまり、同じ階級に「最大4人の世界王者」が存在するということ。団体によって階級設定や判定方法など一部ルールが異なるため、その違いを知るとボクシング観戦がより楽しめるようになります。

プロボクシングの主要4団体とその特徴

主要4団体それぞれが世界タイトルマッチを開催できる権限を持ち、独自のルール制度を採用しています。

この章では各団体の違いを把握できるように、それぞれの特徴をまとめました。

WBA(世界ボクシング協会)

正式名称World Boxing Association
本部パナマ・パナマシティ
加盟国数約90カ国
ルールスリーノックダウン制
(一部の地域タイトル戦やノンタイトル戦のみ)
ベルトの色金色
歴代王者具志堅用高/亀田興毅/堤聖也/井上拓真など

WBAは1921年設立の、もっとも歴史があるボクシング団体。現在の世界王座制度の基礎を確立した団体で、WBC・IBF・WBOはすべてもWBAから派生した独立組織です。

WBAの特徴は、独自の制度「スーパー王者制度」を実施している点。レギュラー王座、ゴールド王座など複数の世界王者が存在するため複雑なランキングとおもわれがちですが、長期間その階級の王者を保持したり、複数階級で王者になると、その上位である「スーパー王者」に認定される仕組みです。

WBC(世界ボクシング評議会)

正式名称World Boxing Council
本部メキシコ・メキシコシティ
加盟国数約161カ国
(4団体で最多)
ルールフリーノックダウン制
オープン・スコアリング・システム
(国や恣試合により採用)
ベルトの色緑色
歴代王者ガッツ石松/山中慎介/中谷潤人/寺地拳四朗など

WBCは、主要4団体の中で最も加盟国が多く、世界的な評価も高い団体です。ドーピング対策として「クリーンボクシングプログラム」を導入するなど、安全性の向上にも積極的。

独自ルールとして「オープン・スコアリング・システム」を採用しているのも特徴といえるでしょう。国や試合によっては実施されないこともありますが、4ラウンドと8ラウンド終了時に採点を公表しています。

IBF(国際ボクシング連盟)

正式名称International Boxing Federation
本部アメリカ・ニュージャージー州
加盟国数約80カ国
ルールフリーノックダウン制
当日計量制度
ベルトの色男子:赤色
女子:水色
歴代王者亀田大毅/尾川堅一/西田凌佑など

IBFはアメリカ中心の団体で米国籍ボクサーが多く、WBAやWBCに次ぐ影響力を持っています。日本は2013年に正式加盟しました。

IBF最大の特徴は「当日計量制度」。前日計量に加えて試合当日の計量があり、前日軽量から10ポンド以上増量するとペナルティが課せられます。ペナルティの例としては王者(チャンピオン)であれば、タイトルの剥奪、挑戦者はその試合で王座を獲得する資格を失う、などです。

WBO(世界ボクシング機構)

正式名称World Boxing Organization
本部プエルトリコ・サンフアン
加盟国数約70カ国
ルールフリーノックダウン制
ベルトの色赤褐色
歴代王者亀田和毅/中谷潤人/井岡一翔/武居由樹など

WBOは1988年設立。4団体のなかでもっとも新しい団体です。加盟国も少ないものの、ミゲール・コットやオスカー・デ・ラ・ホーヤ、ジョー・カルザゲなど、人気と実力を兼ね備えたボクサーの活躍によって地位が急上昇しました。

日本は2013年に正式加盟しており、現在では主要4団体の一角として完全に認知されています。

プロボクシング主要4団体の違い

プロボクシング主要4団体の違いを一覧でまとめました。

設立年ベルトの色加盟国数ルール
WBA1921年金色約90カ国スーパー王者制度
スリーノックダウン制
WBC1963年緑色約161カ国フリーノックダウン制
オープン・スコアリング・システム
IBF1983年赤色約80カ国当日計量制度
フリーノックダウン制
WBO1988年赤褐色約70カ国フリーノックダウン制

WBAは、一部の大会や地域で1ラウンド中に3回ダウンすると自動的にKOになるスリーノックダウン制を採用。IBFは当日計量によって、体重管理を厳格化しています。

このように各団体にさまざまな違いを知っておくと、同じ階級でも“団体ごとの戦い方の違い”があることに気づけるようになります。

日本におけるボクシングの団体

日本のプロボクシングとアマチュアボクシングを統括しているのは、別々の団体です。

プロを統括するJBC(日本ボクシングコミッション)と、アマチュアを統括するJABF(日本ボクシング連盟)を解説します。

JBC(日本ボクシングコミッション)

JBC(Japan Boxing Commission)は、日本のプロボクシングを統括する唯一の公式団体です。

役割は以下のとおり。

  • 世界主要4団体(WBA/WBC/IBF/WBO)との連携
  • 日本ランキングの作成
  • ライセンス交付(ジム・選手・トレーナーなど)
  • 国内で開催されるタイトルマッチの認定

日本ランキングの作成やジムの管理、ルール策定など、日本ボクシング界の根幹を担っています。

また、世界主要4団体にすべてに加盟しており、日本国内で実施される世界タイトルマッチや地域タイトル戦の認可をおこなうのもJBCの大切な役割のひとつです。

日本でプロとして試合を行うためには、JBCのライセンスを取得しなければなりません。

JABF(日本ボクシング連盟)

JABF(Japan Amateur Boxing Federation)は、日本のアマチュアボクシングの統括団体。全国の都道府県ボクシング連盟によって構成されています。

役割は以下のとおり。

  • アマチュア公式大会(高校・大学・社会人)の開催
  • 日本代表選手の選考・育成
  • JOC(日本オリンピック委員会)への加盟団体として活動

アマチュアボクシング選手権大会や全日本大学ボクシング王座決定戦、全国高等学校ボクシング選手権大会などを開催。日本オリンピック委員会(JOC)に加盟しており、日本代表選手の選考・育成も担当しています。

オリンピックや全日本選手権などは、すべてJABFの管理下で行われているのです。

ボクシングの団体の違いを知って楽しむ観戦ポイント

団体の違いに注目することで、ボクシング観戦はさらに面白くなります。団体ごとの楽しみ方や、初心者が注目すべき試合について紹介しましょう。

団体による違いを楽しむ

  • WBC:エンタメ性が高い・世界的知名度も高い
  • WBA:伝統ある雰囲気でクラシックな試合が多い
  • IBF:実力主義・厳格な体重管理が特徴
  • WBO:テクニカルな選手が多く新興勢力感も強い

団体によって、試合の雰囲気やランキング争い、選手層が異なります。

たとえばスリーノックダウン制を採用しているWBAの試合なら、ダウンのたびさらにハラハラできるはず。

試合を観戦する場合は、どの団体が開催しているのかぜひ注目してください。

初心者ならWBC戦がおすすめ

WBCは加盟国数が最多で、世界的にも知名度が高いのが特徴。スター選手も多く、日本での放送や配信も多いため観戦しやすいのもおすすめポイントです。

また、チャンピオンベルトのデザインも特徴的で覚えやすいため、ボクシング観戦初心者でも思わず注目してしまうことでしょう。

ボクシングの試合の雰囲気を掴みたいのであれば、まずはWBCから観戦するといいでしょう。

世界統一戦は“ボクシング界の頂点”

世界統一戦は、主要4団体のベルトを賭けて行われます。4団体のベルトを一度に懸ける「世界統一戦」は、
政治的調整も必要なため極めてレアな試合です。

勝者はすべての団体の王者に認められ、その階級の絶対王者として認定されます。

4団体のベルトを統一するのは非常に難しく、ボクシングの頂点といえます。統一世界王者と呼ばれるボクサーは世界でも数十人しかおらず、まさに栄誉を得るための夢の舞台です。

日本では、井上尚弥選手が2階級4団体統一王者となっています。これはアジア人としては初、史上2人目の快挙でした。

ボクシングの団体に関するよくある質問

ボクシングの団体に関する質問に、Q&A形式で答えます。初心者が気になる質問をまとめたので、観戦をより楽しむためにチェックしておきましょう。

Q1.どの団体のチャンピオンが一番価値が高いの?

世界的評価が高いのはWBCとされます。

しかし、団体よりも選手の実力と試合内容が本質的価値を決めるため、単純には比較できません。

Q2.複数団体のタイトルを同時に保持できる?

複数の団体のタイトルは同時に保持できます。

4つすべての王座を保持すれば、4団体統一王者の称号を得ることに。主要団体のベルトをすべてを賭けて行われる試合は世界統一戦と呼ばれ、勝利した選手は統一王者に認定されます。

Q3.4団体統一したボクサーはいる?

主要4団体王座を統一すると、「Undisputed Champion(アンディスピューテッドチャンピオン・絶対王者)」と呼ばれます。

世界でも数十人しかおらず、なかには複数の階級で4団体統一したボクサーも。

井上尚弥バンタム級/スーパーバンタム級
テレンス・クロフォードスーパーライト級/ウェルター級/スーパーミドル級
オレクサンドル・ウシククルーザー級/ヘビー級

4団体統一は非常に難しく、ボクシング界で最も輝かしい偉業のひとつといえます。

日本では井上尚弥選手が、2階級において4団体統一王者になりました。

Q4.スーパー王者に認定された日本人は?

WBAの制度で、日本人では井上尚弥選手や村田諒太選手、田中恒成選手が認定されています。

Q5.世界王者を認定する団体が複数ある理由は?

もともと世界のボクシング団体は「WBA(旧NBA)」だけでした。運営方針や認定の考え方の違いによって、1963年にWBCが独立。1983年には北米中心の勢力が「IBF」を設立し、さらに一部のメンバーが分裂して1988年に「WBO」が誕生しました。

団体が増えたことにより、タイトル獲得の機会が増えるなどメリットも。一方で同じ階級で複数の王座が存在することに、疑問の声もあがっています。

Q6.団体によってファイトマネーは異なる?

団体はあくまで試合を認定する立場なので、ファイトマネーには関与しません。

日本の場合は、興行のスポンサーがファイトマネーを支払います。

アメリカだと、テレビ局や配信サービスによるPPV(ペイパービュー)収益が主な収入源。有名選手ほど金額が高くなる仕組みを確立しています。

団体の違いを知って“ボクシング通”になろう

ボクシングの団体は王座を認定し、ルールやランキングを独自に管理しています。団体によってルールや選手層は異なるので、その違いに注目しましょう。

中には複数団体のタイトルを同時に獲得した選手もいます。統一王者やスーパー王者に注目すれば、新しい視点で試合観戦を楽しめるのではないでしょうか。

そのほか、ENSPORTS fanではボクシング観戦初心者にむけて基本ルール試合時間を解説した記事も公開中。ぜひそちらも試合観戦前にチェックしてみてください。