ボクシングの試合は、KOやTKOで決着がつかなかったとき判定で勝敗を決めます。しかし、採点基準がわからないと、決着に納得できないこともあるのではないでしょうか。 本記事では、ボクシングの判定の決め方と採点基準を解説します。判定のパターンや楽しむためのポイント、よくある質問も紹介するので、ぜひ参考にしてください。

プロボクシングの判定の決め方

プロボクシングでは、どのような状況のとき判定になるのでしょうか。まずは決着方法の基礎知識と、採点のタイミングについて解説します。

ボクシングで判定になる理由(KO/TKO以外)

最終ラウンドまで勝敗がつかなかったとき、3人のジャッジによる採点で判定します。KOやTKOによる決着は全体のおよそ4〜5割程度とされており、判定になることは少なくありません

軽量級のほうがKOやTKOが少なく、判定による決着が多い傾向です。一撃のパワーが大きい重量級は、KOやTKOによる決着が多くなります。

判定以外の決着方法(KO/TKO/反則など)

以下のような決着方法の場合、判定の前に勝敗が決まります。

KO
(ノックアウト)
ダウンしたボクサーが10カウント以内に立ち上がれなかった
TKO
(テクニカルノックアウト)
レフェリーやセコンドなど第三者が試合続行不可能と判断した
反則負け(失格)重大な反則や繰り返しの反則によって失格になった

また、WBA(世界ボクシング協会)の試合では一部地域・試合で、スリーノックダウン制を採用しています。これは、1ラウンド中に3回ダウンがあった場合、自動的にKOが成立するルールです。

採点のタイミング

ボクシングの判定における採点は、各ラウンドが終了するタイミングで行われます。試合全体ではなく、ラウンド単位で採点するのがルールです。

たとえば10ラウンドの試合だったとき、10回に分けて採点が行われます。各ラウンドの採点を合計して、3人のジャッジからより多くの支持を獲得したボクサーが勝者です。

プロボクシングの採点ルール

プロボクシングの判定は、10ポイント・マスト・システムによって行われます。基本の採点ルールについてまとめました。

10ポイント・マスト・システム

片方のボクサーに必ず10点をつける採点方式です。優勢なボクサーに10点、もう一方のボクサーに9点以下をつけます。

10-10完全に互角と判断された場合
※できるだけ優劣をつける採点が推奨されているため、実際にはあまり使われていない
10-9どちらかが優勢
10-81回のダウンまたはそれに近い状態
10-72回のダウンまたはKO寸前
10-63回のダウン

上記以上の差が開いたときはレフェリーが試合を止めるので、10-5以下の採点はありません。上記の内容や採点基準をもとに、各ラウンドごとにジャッジが採点します。

3人のジャッジが採点

プロボクシングの場合、3人のジャッジ(判定員)が独立して採点します。3人のジャッジのうち、2人以上が支持したボクサーの勝利です。

主観的な判断が入るため、ジャッジごとに採点の傾向は異なります。なお、レフェリー(審判員)は試合進行が役割なので、採点には一切関与しません。

ダウン・反則による採点への影響

ダウンや反則は減点の対象です。たとえばダウンが1回あれば1点減点され、複数のダウンがあればさらに点差は広がります。

反則があったときはレフェリーが宣言して、合計点から減点。反則を繰り返したり、無抵抗の状態の相手への攻撃を続けるなど重大な反則を犯したりした場合は、その時点で失格です。

スコアカードの読み方

各ジャッジは、ジャッジペーパーと呼ばれるスコアカードを記載します。以下は6ラウンドの試合のスコアカード例です。

各ラウンドごとに、優勢なボクサーが10点、それ以外が9点以下になります。

1R2R3R4R5R6R合計点
ボクサーA9810910854
ボクサーB101091091058

このジャッジペーパーをつけたジャッジは、合計点が多かったボクサーBを支持します。

ただし、反則行為があると最終的な合計点から減点されるため、逆転する可能性もゼロではありません。

プロボクシングの採点基準

プロボクシングの採点基準は、大きくわけて4項目です。くわしい採点基準と該当するシーンについて、わかりやすく解説します。

クリーンエフェクティブヒット(有効打)

明確にダメージを与えた有効打のことで、採点基準の中で最も重視される項目です。たとえばパンチによって相手がよろめいたり後退させたりした場合に、有効打とみなされます

単なる接触やブロック上からの軽い打撃は、評価されません。ジャッジは相手ボクサーの状態や表情をよく見て、ダメージが入ったかどうか判断します。

アグレッシブ(攻勢)

どちらのボクサーがより攻撃的だったかを判断します。積極的に攻撃する姿勢を見せ、パンチを多く繰り出したり相手を守勢に追い込んだりしたかどうかが採点のポイントです。

ただし、ただ前進するだけでは評価の対象外。クリーンエフェクティブヒット(有効打)が重要視されるので、有効なパンチがなければ優勢とは判断されません。

ディフェンス(防御)

ディフェンスによって、相手の攻撃をどれだけ効果的に防いだかを採点する基準です。バックステップやスウェー、ダッキングなど、ディフェンス技術が評価されます。

たとえば相手がパンチを空振りしたり、ガードで完全に防いだりすることは、採点につながりやすい要素。ただし、防御するだけで攻撃に結びついていなければ、評価の対象外です。

リング・ジェネラルシップ(主導権)

どちらが主導権を握っていたかを判断する項目で、ボクサーの試合態度や戦術を採点します。相手を自分のペースに引き込んだか、自分のペースで試合を進められていたのかが評価の対象です。

試合全体の流れを支配していたボクサーが優勢。距離をコントロールして有利な状態を保ったり、圧力をかけて攻撃させないよう立ち回ったりしていた場合に、高く評価されます。

プロボクシングにおける判定のパターン

プロボクシングでは、3人のジャッジの判定によって勝者が決定します。基本的な判定パターンをまとめました。

ユナニマス・デシジョン(3-0)

3人のジャッジ全員が同じボクサーを支持した判定パターンです。3-0と表記され、判定に疑問の余地がない明確な勝利といえます。どちらが優勢かが明確で、観客から見ても勝敗がわかりやすいケースです。

スプリット・デシジョン(2-1)

3人のジャッジのうち2人が一方を支持し、1人は別のボクサーを支持。拮抗した接戦の判定のケースが多く、ジャッジの評価が分かれたと考えられます。観客の中でも意見が分かれやすい判定パターンです。

マジョリティ・デシジョン(2-0)

2人のジャッジが一方のボクサーを支持して、1人のジャッジが引き分け(ドロー)と判断した判定です。勝利したボクサーがやや優勢だったと判断されます。接戦であったが勝ちきったと評価される試合です。

ドロー(マジョリティ/ユナニマス/スプリット)

プロボクシングにおける引き分けには、いくつかのパターンがあります。

マジョリティ・ドロー1人のジャッジが選手Aを支持/2人のジャッジが引き分け
スプリット・ドロー1人が選手Aを支持/1人が選手Bを支持/1人が引き分け
ユナニマス・ドロー3人のジャッジが引き分け

上記のようなケースでは勝敗がつかず、両ボクサーの引き分けとされます。拮抗している状態で発生する判定ですが、比較的少ないケースではありますが、拮抗した試合では起こりえます。

プロボクシングの観戦を楽しむ判定のポイント

判定の基礎知識が身につけば、プロボクシングの観戦はより楽しくなります。判定を理解するための観戦ポイントについて、わかりやすく紹介しましょう。

各ラウンドでどちらが優勢かに注目する

ボクシングの判定は、各ラウンドごとの試合展開を採点するルールです。「このラウンドではどちらが優勢だったか」を、意識して観戦しましょう。

試合全体だけではなく、ラウンドごとの勝者がどちらなのか考えれば、ジャッジに近い視点で楽しめるように。判定の感覚が身につくことで、結果にも納得しやすくなります。

「有効打」に注目する

判定でもっとも重要視されるのは、有効打(クリーンヒット)です。派手な動きやパンチよりも、実際に相手へダメージを与えたかが重要視されます。

相手にしっかり届いたか、体制を崩せたかなど、パンチの結果に注目しましょう。相手ボクサーの動きや表情の変化、パンチの音に注目すれば、有効打かどうか判断できるようになります。

自分で採点してみる

より深い視点で観戦を楽しみたいなら、自分で採点してみるのがおすすめです。各ラウンドで自分なりに点数をつけるだけでOK。なんとなくの印象でも構いません。

紙のスコアカードは簡単に作成できますが、専用のスマートフォンアプリもあります。どちらが優勢なのか考えながら採点し、実際の判定と比較してみましょう。

プロボクシングの判定に関するよくある疑問

プロボクシングの判定について、よくある疑問をまとめました。判定についてより深く知るために、ぜひ参考にしてください。

Q1.プロとアマチュアで判定形式に違いはある?

プロとアマチュアの判定方式は、どちらも10ポイント・マスト・システムです。ただし、採点方式は異なり、アマチュアでは以下のような項目を重視します。

  • ターゲットエリアへの質の高い打撃の数
  • 技術や戦術の優勢をともなって競技を支配
  • 試合を継続して勝利を目指す積極性

プロと違ってアマチュアは、ダウンはそれほど採点に影響しません。基本的に引き分けがないのも、プロとの大きな違いです。

Q2.団体ごとに採点方法に傾向はある?

主要4団体(WBA・WBC・IBF・WBO)は、すべて10ポイント・マスト・システムを採用しています。採点方式そのものに、大きな違いはありません。

ただし、WBC(世界ボクシング評議会)やJBC(日本ボクシングコミッション)では、一部地域・一部試合でオープンスコアリング制(公開採点制度)を導入しています。

WBCでは、4ラウンド終了時と8ラウンド終了時にスコアを公開するルールです。JBCの日本タイトルマッチの場合は、5回ラウンド終了時にスコアを公開しています。

Q3.国内戦と世界戦での採点に違いはある?

国内戦では技術や防御が評価されやすく、世界戦では攻撃性やパワーが重視される傾向があります。地元で試合をするボクサーのほうが、有利な判定になりやすいといった意見も。

ただし、これらはあくまで一般的な傾向で、必ずしもそうとは限りません。基本的な判定基準は同じなので、そこまで大きな違いがないと考えておきましょう。

Q4.判定に抗議が入ることはあるの?

判定に抗議が入ることはありますが、覆ることはほとんどありません。ジャッジの判定が尊重されるため、決着後に勝敗が逆転することはないといえます。

ただし、2017年に行われたWBA世界ミドル級戦・村田諒太VSアッサン・エンダムでは、疑惑の判定が話題になりました。不可解な判定から再戦が決まった珍しい例です。

Q5.ダウンを取っても負けることはある?

ダウンを奪うとそのラウンドは優勢となり、とられたほうが減点されます。しかし、ラウンドの勝敗は各ラウンドの合計点で決まるので、必ずしも勝てるとは限りません。

たとえば1回ダウンをとっても、他のラウンドで劣勢が続けば判定負けすることが考えられます。ダウンをとられる劣勢から始まり、逆転したケースは少なくありません。

ボクシングの判定を理解して試合をもっと楽しもう

ボクシングの判定では、明確な基準に基づき各ラウンドを採点します。ジャッジは3人いて、より多く支持されたほうが勝者になるルールです。

判定の基本的な仕組みを理解すれば、試合がより一層楽しくなるのではないでしょうか。各ラウンドの攻防に注目したり、自分でスコアをつけてみたりと、より深い視点で観戦を楽しめるはず。

そのほか、ENSPORTS fanではボクシング観戦初心者にむけて基本ルール観戦時の持ち物などを解説した記事も公開中。ぜひそちらも試合観戦前にチェックしてみてください。