サッカーのサイドバックの役割
サイドバックは、フィールドの左右にポジションをとり、サイドエリアから攻撃と守備の両方でチームに貢献するポジションです。
クロスでゴールをアシストしたり、ドリブルで相手ゴールに迫り得点を狙ったりします。ディフェンス時は、サイドエリアに侵入してきた相手からボールを奪う役割を担います。
オフェンス時の役割と動き
オフェンス時は積極的にサイドラインを駆けあがり、サイドから攻撃を展開します。中央からパスを引き出したり逆にサイドから中央にパスを供給したりして、チームの攻撃にバリエーションをもたらします。
精度の高いクロスでフォワードのゴールを演出したり、サイドから斜めに切れ込んで相手ディフェンス陣を混乱させたりと、多彩な攻撃でディフェンスに的を絞らせません。
中央からの攻撃が通用しないときほど、サイドバックの攻撃参加が勝利の鍵をにぎります。
ディフェンス時の役割と動き
ディフェンス時も、サイドエリアを担当します。
相手のウイング選手とポジションがぶつかるため、ウイング選手を止める働きが期待されます。サイドの守備は手薄になりがちなため、相手ウイングと1対1で対決するケースが多くあるでしょう。中央から逃げてきた相手選手を待ち構えて、直接ボールを奪う役割も重要です。
攻撃に上がったサイドバックの後ろに広がったスペースは、相手チームに利用されるとゴールを奪われるピンチにつながります。そのため相手にボールが渡ったら、いち早く自陣に戻ってスペースを埋めなくてはなりません。
攻守の切り替わりのたびにサイドラインを行ったり来たりする、ハードワークが必要になります。
サッカーのサイドバックに求められる能力
積極性とクロス精度、ポジショニング能力を持つ選手は、サイドバックに向いています。
サイドバックには、高い身長や当たりの強さといった身体能力はあまり求められません。身長の低い選手やフィジカルに自信のない選手でも活躍できるポジションが、サイドバックです。
積極性
サイドバックが攻撃に参加すると後ろに大きなスペースができるため、リスキーな行動といえます。リスクを承知で前線に上がり、攻撃参加する能力が積極性です。
中央エリアはゴールにつながるプレイが多く、相手が警戒するエリアであるため、中央攻撃だけでゴールを奪うのは至難の業。そこでサイドの選手が前線に顔を出し、攻撃にバリエーションを増やせば、相手守備陣を混乱させられるのです。
サイドと中央の両方から攻撃できれば、ゴールを奪う可能性は格段に上がるでしょう。
クロス精度
クロス精度とは、オフェンスがゴールを決めやすいよう、的確なボールを供給する能力のこと。
サイドエリアは守備の人数が少ないため、サイド攻撃はどのチームが相手でも有効です。しかし精度の悪いクロスは相手ディフェンスに簡単にクリアされるばかりか、相手のカウンター攻撃の起点になってしまいます。
ヘディング能力に優れたフォワードでも、ディフェンダーにマークされればヘディングシュートで得点するのは難しくなります。そこでフォワードを囮に、別の選手が後ろから飛び込むといった戦術も有効であるものの、それにはピンポイントで合わせるクロス精度が欠かせません。
味方の攻撃を担当する選手の特徴に合わせ、高いボールや低いボール、早いボール、カーブのかかったボールといった、さまざまなクロスを使い分けることがゴールの成功率を高める秘訣。
サイド攻撃を完結させるには、最後に放つクロスの精度が欠かせないのです。
ポジショニング能力
得点状況や戦術に合わせて、適切な位置でプレイする能力がポジショニング能力です。
チームがリードしているときは、味方ゴールに近い位置で守備に専念したり、サイドから攻める戦術なら、ミッドフィルダーの位置まで上がったりします。
敵にチャンスをつくらせないように、スペースを埋める動きは重要ですが、ディフェンスに専念すると攻撃のサポートができなくなります。臨機応変にポジションを変更し、攻撃陣を助けなくてはなりません。
そのためサイドバックのポジショニングは繊細で、習得するにはチームメイトとの連携が欠かせないのです。
もともとポジショニング能力があるサイドバックは、攻撃と守備の両方で適切な位置でプレイできるため、すばやい攻撃参加と隙のない守備が実現しやすいのです。
フレキシブルに動けるサイドバックは試合の全局面で活躍できるため、チームの勝利に欠かせない存在となるでしょう。
サイドバックの有名サッカー選手を紹介
サイドバックを務める選手は、「ミッドフィルダーやディフェンダーからポジション変更して、サイドバックを始めた」選手が少なくありません。
そのためサイドバックの有名選手は、積極性やクロス精度、ポジショニング能力のほかに、テクニックや身体能力に優れた選手が存在します。
ここでは5名の有名選手をご紹介しましょう。
- 内田篤人
- 長友佑都
- パオロ・マルディーニ
- ダビド・アラバ
- 青井 葦人(あおい あしと)
日本 内田篤人
内田篤人は、日本のJリーグとドイツのブンデスリーガで活躍したサイドバック。
高校時代から能力を高く評価され、鹿島アントラーズでJリーグデビューしました。2006年のJリーグ第4節のヴァンフォーレ甲府戦では、ドリブル突破からゴールキーパーの股を抜く鮮烈なシュートでゴールを記録し、クラブ史上最年少得点を記録。
17歳11か月でのプロ初得点は、同時に高卒ルーキーとしてJリーグ史上最年少の得点記録でもありました。2009年の鹿島アントラーズのJリーグ3連覇にも大きく貢献し、自身もJリーグベストイレブンに選出されています。
サイドエリアからドリブルで相手をかわしてシュートを打つプレイスタイルは、「フィールドを広く使ってクロスを供給する」というサイドバックのセオリーとは外れて注目を浴びました。
スピードに乗ったドリブル突破とシュート精度で得点を重ねたJリーグ時代でしたが、ブンデスリーガのシャルケ04に移籍してからは、試合の流れに合わせたポジショニングを身につけチームに貢献。移籍当初は、思うように活躍できなかったものの、ポジショニングやドリブル突破を活かし徐々に頭角を現しました。
2014年シーズンには、ブンデスリーガ公式サイトにてベストサイドバックに選ばれるなど、海外でも大きな実績を残しています。
日本 長友佑都
長友佑都は、身長170cmとディフェンダーとして小柄ながら、試合終盤まで走り続けられる運動量と屈強なフォワードにも競り負けない体の強さ、一瞬で相手を抜き去るスピードを武器に、海外リーグでも活躍した日本の代表的サイドバックです。
長友佑都が世界的に有名になった試合は、2010年ワールドカップのカメルーン戦。長友は左サイドバックで出場し、カメルーン不動のエースストライカーであったサミュエル・エトーをほぼシャットアウトし、勝利に貢献しました。続くオランダ戦でも、相手サイドの攻撃陣にほとんど仕事をさせない働きをみせます。
ワールドカップの活躍が評価され、イタリア・セリエAのACチェゼーナに移籍。たちどころにスタメンを確保し、状況に応じて左右のサイドバックもこなしました。
チェゼーナでの活躍も評価され、イタリアの名門であるインテル・ミラノに日本人で初めて移籍。長友佑都が試合で活躍すると、その夜に日本のテレビで試合のリプレイが流されるなど、日本のサッカー人気もけん引したプレイヤーです。
2018年のロシアワールドカップでは髪を金髪に染めて、「なかなか明るい話題がないので、髪ぐらいは明るくしておこうかなと。冗談ですけどね」と発言するなど、ユニークなキャラクターも魅力の名サイドバックです。
海外 パオロ・マルディーニ
パオロ・マルディーニは、イタリアが生んだレジェンドプレイヤーです。「史上最高の左サイドバック」とまで評され、世界的な人気を博しました。イタリアの有名クラブACミラン一筋でプレイしたため、ACミランの顔としても有名です。
イタリア代表で左サイドバックを務め、1986年から2002年までの16年間活躍しました。ワールドカップに通算23試合も出場し、ワールドカップ最多フル出場試合数とワールドカップ最多出場時間を記録しています。
1対1で競り負けない強さと積極性を活かした攻撃参加を武器に、攻守の両面で活躍するプレイスタイルが特徴的。相手の攻撃を先読みする戦術眼も備えており、左サイドエリアはマルディーニの独壇場として有名でした。
現役最後の試合では、ロスタイムに相手選手がわざとボールを外に蹴りだし、マルディーニのための時間をつくります。プレイが再開されるまでの間、その場にいたすべての観客とチーム関係者がスタンディングオベーションでマルディーニの活躍を称えました。
海外 ダビド・アラバ
ダビド・アラバは、オーストリア出身のサッカープレイヤーでドイツ・ブンデスリーガの名門バイエルン・ミュンヘンにて10年間以上活躍した名サイドバックです。2021年にスペインのラ・リーガのレアル・マドリードに移籍しました。
2011年から2014年までオーストリア年間最優秀選手を4度受賞するなど、オーストリア代表の中心選手でもあります。
高いクロス精度とパス能力、強力なミドルシュートまで備えており、サイドから中央にポジションを変更して中央の底からゲームメイクも行えるユーティリティな働きが特徴。アシストやゴールに絡む活躍が、ダビド・アラバ最大の魅力です。
2021年に移籍したレアル・マドリードでのFCバルセロナ戦では、中盤のカウンター攻撃に参加すると、相手ゴールキーパーが触れられない絶妙な位置にミドルシュートを決める活躍をみせました。
アオアシ 青井 葦人(あおい あしと)
青井 葦人は、人気漫画雑誌「ビッグコミックスピリッツ」で連載しているサッカー漫画「アオアシ」の主人公。中学時代はフォワードでしたが、中学卒業後にJリーグのユースチームである「東京シティ・エスペリオン」に入団した際、サイドバックにコンバートしています。
ゴール前でのダイレクトプレイが得意な一方、パス能力や繊細なボールコントロールが苦手な選手です。しかしフィールドを上空から見渡せる「俯瞰力」を身につけていたため、サイドバックにコンバートされました。
俯瞰能力は「タカの目」とも呼ばれ、「どの選手が、どのくらいの距離で、どこにいるのか」といった情報をつかめる能力のこと。漫画の世界だけでなく、現実に俯瞰力を備えたプレイヤーは実在し、日本代表で中盤を務めた中田英寿や遠藤保仁らはこれらの能力を持っているといわれています。
上手くなるために苦手な先輩にも積極的に質問したりと、サッカーへの熱い情熱を持ったキャラクターで、これからの活躍が楽しみな選手です。
サッカーのサイドバックは攻守に欠かせないポジションである
現代サッカーでは、サイドバックの存在が攻守に欠かせないポジションとなっています。
2006年から2018年までのワールドカップ4大会におけるフォーメーションをみてみると、優勝国はすべて4バックのシステムを採用していました。4バックでは、ディフェンスラインの左右に必ずサイドバックをおくシステムとなります。
そのためサイドバックの活躍次第でチームの勝利が左右されるといっても過言ではなく、これからの時代もサイドバックはチームに欠かせない存在として注目されることでしょう。