ボクシングにおけるKO(ノックアウト)とは?

まずはボクシングにおけるKO(ノックアウト)の基本ルールを、プロボクシングとアマチュアボクシングに分けて解説します。
KOの基本ルール
KOとは「Knock Out(ノックアウト)」の略で、「打ち負かす」「敗退させる」という意味があります。
ボクサーが倒れ、レフェリーの10カウント以内に立ち上がれなければ試合終了。これがKO負けです。
10秒以内に立てたとしても、レフェリーが続行可能と判断しないと試合は止められます。
プロボクシングにおけるKO
プロではKOが“もっとも華やかな決着”と言われています。理由は簡単で、完全に倒し、動けなくさせた明確な勝利だからです。
一部の団体や大会では、スリーノックダウン制を採用しており、同一ラウンドで3回ダウンするとKO負けとされます。
正当な攻撃によってダウンし、ただ立ち上がるだけではレフェリーは試合続行可能とは判断しません。10カウント以内にファイティングポーズを取れなければKO負けとなります。
ちなみに選手がともにダウンして立ち上がれなかった場合は、引き分け(ダブルノックアウト)です。
アマチュアボクシングにおけるKO
アマチュアでも基本ルールは同じですが、安全性が最優先されます。
10カウント中に異常が見られたり、明らかに意識が混濁しているなどの場合は、カウントを待たずにレフェリーが試合を止めてドクターを呼ぶことも。
アマチュアはKO自体が発生しにくい競技体系(ヘッドギア着用・ポイント重視)のため、プロよりKO数は少なくなります。
ボクシングにおけるTKO(テクニカルノックアウト)とは?

KOとTKO(テクニカルノックアウト)は、言葉は似ていますがボクシングのルールでは別物です。
この章ではTKOの意味についてくわしく解説します。
TKO(テクニカルノックアウト)の意味
TKOは「Technical Knock Out(テクニカルノックアウト)」の略で、技術的なノックアウトのこと。倒れてはいないけど、試合続行が危険と判断されたためストップされた場合の決着です。
以下のような場合でTKOが宣言されます。
- ガードが全く上がらず、一方的に打たれている
- 足元がふらつき、防御反応がない
- 深いカット(裂傷)で出血が止まらない
- 打撃の蓄積で明らかに危険
- こうした状況が続くと
「これは危ない」と判断されて試合が止まります。
倒れていなくても “動けない” “危険” 状態と判断されれば試合は終了。TKO負けになります。
プロボクシングにおけるTKO
| レフェリーストップ(RSC) | レフェリーが試合展開や負傷で「試合続行不可能」と判断した TKOでもっとも多いケース |
| ドクターストップ | 負傷や異常により、ドクターが「試合続行不可能」と判断した |
| ギブアップ(タオル投入) | 選手本人やセコンドが試合続行不可能と判断した 日本ではタオル投入が一般的 |
プロボクシングにおけるTKOは、上表のとおり。これらは公式記録上はすべてTKOとして扱われます。
アマチュアボクシングではRSCがTKOに相当する
アマチュアボクシングでは「Referee Stop Contest(レフェリーストップコンテスト)」という判定がTKOに該当します。直訳すると「レフェリーが試合を止める」です。
- 決定的な差がついたとき
- 劣勢のボクサーが過度な打撃を受けているとき
- ダウン後に競技を続けられないと判断されたとき
- 負傷によってドクターから試合中止勧告がだされたとき
繰り返しになりますが、アマチュアボクシングでは選手の安全を重視します。危険な試合を早く止めるために、RCSが制定されています。
RSCの種類としては、試合中の偶発的な事故で試合続行不可能と見なされる「RSC-I (レフリーストップコンテストインジャリー)」があります。
ボクシングのKOとTKOの違い

KOとTKOの違いについて、複数の観点から比較しました。
| KO | TKO | |
|---|---|---|
| どうなると負け? | 10カウント以内に立てない | 倒れていなくても続行不能 |
| 判定する人 | レフェリーのみ | レフェリー・医師・セコンド・本人 |
| 勝ち方の印象 | 一撃必殺 | 支配して試合を止めさせる |
| 結果の重さ | より“完全勝利”のニュアンスが強い | 安全確保のための技術的ストップ |
| 起こりやすさ | プロは多い、アマは少なめ | プロ・アマとも一定数 |
これをざっくりとまとめると、KOとTKOの違いは…
- 倒して勝つ → KO
- 危険なので止めて勝つ → TKO
ということになります。
KO・TKO以外の勝敗の決まり方

ボクシングの試合は、必ずしもKOやTKOで決着するとは限りません。ボクサーの状況によって、さまざまな形で決着がつきます。
判定勝ち(ポイント制)
最終ラウンドまで決着がつかない場合、判定によって勝敗を決定します。
プロとアマチュアの両方で10ポイントマストシステムを採用していますが、採点基準や得点の与え方はそれぞれ異なります。
10点満点の減点方式で、優勢なほうには必ず10点をつけるのが基本。採点基準によって劣勢のほうから減点して、ラウンドごとの採点に基づいて結果を決定する仕組みです。
反則負け・棄権・ドクターストップ
その他の勝敗の決まり方をまとめました。
| 決着 | 内容 | プロ/アマ |
|---|---|---|
| 反則負け(失格) | 重大な反則または意図的な反則 (頭突き・ローブローなど) | プロ・アマ |
| 棄権(ギブアップ) | セコンドや本人が試合続行を望まない場合 | プロ・アマ |
| ドクターストップ | 負傷で危険な場合、医師が試合続行不可能と判断 | プロ・アマ |
| 負傷判定 | 偶然・不可抗力の反則による負傷が発生した | プロ |
| リングアウト | 転落したボクサーが20カウント以内に戻らない | プロ |
| ノーコンテスト | 重大なアクシデントによって試合が成立しない | プロ |
| 不戦勝 | 一方が登場して1分たっても相手が現れない | アマ |
| 特別な再試合 | 1ラウンド終了前に試合続行が不可能になった | アマ |
反則負け・棄権・ドクターストップの場合、その時点で勝敗が決定します。KOやTKOと同様に、ラウンドの途中であっても試合は即終了です。
KOとTKOの名場面を紹介

ボクシングの試合では、数々の名場面が生まれています。KOやTKOで勝敗が決まった試合について、解説しましょう。
山中慎介 vsトマス・ロハス
| 試合日 | 2012年11月03日 |
| 試合 | WBC世界バンタム級タイトルマッチ |
| 勝者 | 山中慎介 |
| スタイル | 山中慎介:左ボクサーファイタートマス・ロハス:サウスポー |
WBC世界バンタム級タイトルマッチの王者山中慎介選手と、挑戦者トマス・ロハス選手の対戦です。
神の左と称される左ストレートによって、7ラウンドで劇的なKO勝利を収めました。
井上尚弥 vs ポール・バトラー
| 試合日 | 2022年12月13日 |
| 試合 | WBA・WBC・IBF・WBO世界バンタム級王座統一戦 |
| 勝者 | 井上尚弥 |
| スタイル | 井上尚弥:右ボクサーファイターポール・バトラー:オーソドックス |
ボクシングにおける主要4団体のベルトを統一するための一戦です。11回に井上尚弥選手のKOで決着。
「モンスター(井上尚弥)」 vs 「童顔の暗殺者(ポール・バトラー)」 の対決として注目を集め、熱い戦いを繰り広げました。
比嘉大吾vsモイセス・フェンテス
| 試合日 | 2018年2月4日 |
| 試合 | WBC世界フライ級タイトルマッチ |
| 勝者 | 比嘉大吾 |
| スタイル | 比嘉大吾:右ボクサーファイターモイセス・フェンテス:オーソドックス |
右ボディーストレートにより、1ラウンドで比嘉大吾選手のKO勝ちに。高い技術力とパワーが炸裂した試合です。
このとき比嘉大吾選手は、15連続KO勝利の日本タイ記録を達成しています。
KOとTKOに関するよくある質問

KOとTKOに関するよくある質問をまとめました。最短記録やKOやTKOが多いボクサーの傾向など、気になる疑問を解消します。
Q1.KOやTKOはどのくらいの割合で起こる?
KOやTKOは区別せずに記録し、総合的な割合は全体の40~45%と言われています。ボクサーごとのKOやTKOの割合に注目。モンスターという愛称で知られる井上尚弥選手は、90%前後といわれています。
Q2.世界最短KOの記録は?
世界最短記録は、1994年9月コロンビアのフェザー級10回戦のエベル・ベレニョ選手による1回5秒のKO勝ち。タイトルマッチ史上最速KOは、2017年11月18日WBO世界バンタム級タイトルマッチのゾラニ・テテ選手で11秒です。
2005年7月21日スーパーウエルター級4回戦の斉藤大喜選手の1回8秒が、日本ボクシングのTKO最短記録を更新しました。左フックでダウンを奪い、レフェリーがノーカウントで試合をストップしています。
Q3.KOやTKOが多い選手の特徴は?
一般的に体重が重い階級のほうが、KOやTKOで決着がつく割合が高い傾向があります。体重が重いほどパワーが強く、相手に与えるダメージが大きいことが理由です。
一般的に軽量級のボクサーは技術やスピードを武器とするため、KOやTKOは少ない傾向。ただし、井上尚弥選手のように、軽量級でもKOが多い選手も存在します。
Q4.KOとTKOはどちらが強い勝ち方?
一般的にKOは完全勝利と呼ばれる決着方法です。相手をダウンさせて勝つため観客にもわかりやすく、勝者の実力が明確に示されます。
一方のTKOはボクサーの安全を守るために判断されることが多く、KOとは意味が少し異なります。KOのほうがより強い勝ち方と、判断される傾向です。
KOとTKOによる勝敗の行方に注目しよう
KOはダウンした選手が10秒以内に立てないときの、TKOは試合続行不能と判断されたときの決着方法です。一撃で勝敗を決めるKOは、とくにボクシングの華といわれています。
KOとTKOの意味や基準は異なるため、違いをチェックしておきましょう。試合の展開やレフェリーの判断が理解できるようになることで、試合をより楽しめるのではないでしょうか。
そのほか、ENSPORTS fanではボクシング観戦初心者にむけて基本ルールや試合時間を解説した記事も公開中。ぜひそちらも試合観戦前にチェックしてみてください。