ボクシングのダウンとは?

ボクシングにおけるダウンの定義について、わかりやすく解説します。発生するシーンや、判定に与える影響など、基礎知識をまとめました。
ボクシングにおけるダウンの定義
ボクシングにおけるダウンとは、有効打を受けた結果、足裏以外の部分がキャンバス(リングの床)についた状態のことです。
ダウンが宣告されると、レフェリーは試合を中断してカウントを開始します。
ダウンしたボクサーは10カウント以内に立ち上がり、ファイティングポーズをとらなければなりません。構えがとれない、または立ち上がれない場合は、その時点でKO負けとなります。
ダウンが起きるのはどんなとき?
ダウンは単に倒れたかどうかだけで判断されるものではありません。有効打を受けて体勢が崩れ、そのまま試合を続けるのが危険と判断される状態がダウンとみなされます。
たとえば、膝や手が意図せず床についた場合や、打撃の影響で立っていられない状態が、ダウンです。
また、ロープに寄りかからなければ立てないと判断された場合も、ダウンとしてカウントが始まることもあります。
ダウンが判定に与える影響
最終ラウンドまで決着がつかない場合、各ラウンドの内容を採点して勝敗を決定します。必ず優勢なほうに10点をつけ、劣勢なほうから減点する仕組みです。
これを「10ポイント・マスト・システム」といいます。
| 10-10 | 完全に拮抗している |
| 10-9 | 一方が優勢 |
| 10-8 | 一度のダウンもしくはこれに近い状態 |
| 10-7 | 2回のダウンもしくはKO寸前 |
| 10-6 | 3回のダウン |
※あくまで一般的な目安であり、実際の採点はジャッジの裁量によって異なります。
ダウンが多いほど劣勢になり、負ける確率が高くなる仕組みです。ただし、採点基準はプロとアマチュアで異なります。アマチュアの場合はダウンがそこまで影響しません。
フリーノックダウン制とスリーノックダウン制
プロボクシングには、フリーノックダウン制とスリーノックダウン制があります。
| フリーノックダウン制 | ダウンが何回発生してもレフェリーが判断すれば試合続行 |
| スリーノックダウン制 | 1ラウンド中に3回ダウンした時点で試合終了 |
主要4団体(WBA・WBC・IBF・WBO)の中で、WBA(世界ボクシング協会)だけが一部の試合・地域でスリーノックダウン制を採用。それ以外はフリーノックダウン制です。
ボクシングのダウンとKO・TKOの違いとは

ダウンとKO・TKOの定義は異なるため、違いを把握しておくことが重要です。それぞれどのような状態のことなのか、基礎知識を解説しましょう。
KO(ノックアウト)との違い
- ダウン:一時的に試合が中断される状態
- KO:立ち上がれず、その場で勝敗が決定する状態
KO(ノックアウト)とは、ボクシングにおける決着方法のひとつ。
ダウンしたあと10カウント以内にファイティングポーズをとれば、試合続行が可能です。ダウン後10カウント以内に立ち上がれない場合は、KO負けが決定します。
TKO(テクニカルノックアウト)との違い
- ダウン:必ずしも試合終了ではない
- TKO:ダウンの有無に関係なく試合終了
TKO(テクニカルノックアウト)は、レフェリーやドクター、セコンドが試合続行不可能と判断した場合に宣告されます。
KOとの違いは、必ずしもダウンが必要ないことです。足の裏以外が床についていない状態でも、試合続行が危険とみなされればTKOが宣告されます。
ちなみにプロにおけるTKOには、アマチュアのRSC(レフェリー・ストップ・コンテスト)が該当します。プロより安全性が重視されるため、プロより宣告される確立は高い傾向です。
ボクシングのダウンの種類一覧|ノックダウン・スリップとの違い

ダウンしたときの状況によって、レフェリーの対応は異なります。ダウンの種類と判定基準をまとめました。
ノックダウン|通常のダウン
ボクシングで最もよく見られ「ダウン」といえば通常はノックダウンを指します。片方のボクサーがパンチをうけ、足裏以外の部分が床に触れた状態のことです。
足の裏以外が床に触れたとき、レフェリーはそれが有効打によるものなのか瞬時に判断します。10カウントが始まり、ファイティングポーズをとれなければKO負けです。
スタンディングダウン|立ったままのダウン
スタンディングダウンとは、立った状態で宣告されるダウンのことです。足の裏以外の部位がフロアに触れていなくても宣告されます。JBC(日本ボクシングコミッション)では、立ったままカウントをとるスタンディングカウントを1998年に廃止にしています。
現在の日本のプロボクシングでは、基本的に「倒れた場合のみダウン」と考えて問題ありません。
ただし、レフェリーの裁量によって、ロープにもたれかかった状態からカウントを開始することもあります。
ダブルノックダウン|同時ダウン
ダブルノックダウンとは、両ボクサーが同じタイミングでダウンすることです。非常に珍しいケースで、一歩も譲らない激しい打ち合いのとき発生することがあります。
10カウント以内に片方が立ち上がれない場合は、KOで勝敗が決定。両方が立ち上がれなければ、ダブルノックアウトとして引き分け(ドロー)となります。
スリップダウン|ダウンと判定されない
ダウンと判定されない転倒をスリップダウンといいます。バランスを崩して転んだ、つまずいたなど、有効打と関係ない理由で足の裏以外をリングにつけるとスリップダウンです。
スリップダウンはダウンではないため、カウントはされず採点にも影響しません。一方でボクサーのリズムが崩れ、その後の試合展開に影響を与えることも。レフェリーは転倒がダウンなのかどうかを、冷静に見極めて判定します。
ボクシングのダウンに関するルールとレフェリーの判断基準

ボクシングのダウンが発生した場合、明確なルールに基づいて対応します。カウントの流れや判断基準、その他のルールについて紹介しましょう。
カウントの流れ
足の裏以外がフロアについたと判断したレフェリーは、直ちにカウントを始めます。その間相手のボクサーは、白いコーナー(ニュートラルコーナー)で待機していなければいけません。
ボクサーが立ち上がったとしても続行が決まるわけではなく、レフェリーの許可が必要です。カウント中は、「構えを作れているか」「フラつきがないか」に注目してください。
レフェリーは何を見て判断するのか
レフェリーが重視するのは、ダウン後に試合続行が可能かどうかです。立ち上がったボクサーの状態を見極め、試合を再開できるか判断します。
ファイティングポーズをとれているかが重要なポイント。足の運びやガードの位置など選手の動きや声掛けへの反応を見れば、判断基準がわかりやすいのではないでしょうか。
アマチュアとプロのダウンルールの違い
ダウンの定義や10カウントで立ち上がれなければKOなど、基本的なルールに違いはありません。ただし、アマチュアの場合、ボクサーの安全性を一番に重視します。
アマチュアではスタンディングエイトカウントが採用され、ボクサーが立っていても危険な状態ならカウントが始まります。8カウントしたあと、試合続行が可能かレフェリーが判断する流れです。
ダウンシーンで初心者が注目すべきポイント

ボクシング観戦に慣れていないと、ダウンが起きた瞬間は「倒れた・立った」だけで終わってしまいがちです。
しかし、実はダウン後には試合の流れを左右する重要な判断や動きが詰まっています。
ダウンシーンでは、「倒れた瞬間」ではなく「立ち上がり〜再開後」までを見るのがポイント。
- 立ち上がる速さ
- レフェリーの判断
- ニュートラルコーナーの動き
- 再開直後の攻防
これらを意識するだけで、ボクシング観戦の理解度と楽しさは一気に高まります。ウンシーンの見どころ」を解説します。
立ち上がる速さ
まず注目したいのが、ダウンした選手がどれくらいの早さで立ち上がるかです。
- カウントが始まってすぐ立ち上がる
- 8〜9カウントまで粘ってから立ち上がる
この違いだけでも、選手の状態や試合の緊張感が伝わってきます。
早く立ち上がれた場合は、比較的余裕があると判断されやすく、試合続行の可能性も高くなります。一方、ギリギリで立ち上がる場合は、レフェリーの判断がより厳しくなる場面でもあります。
レフェリーの仕草
ダウン後は、選手よりもレフェリーの動きに注目するのもおすすめ。
レフェリーはカウントを取りながら、選手の目線や構えの安定、指示への反応などを確認しています。
特に、レフェリーが手を前に出したり、選手に声をかけたりする場面は、試合続行の可否を見極めている重要なタイミングです。
観戦初心者は「立った=安心」ではなく、レフェリーが再開を許可する瞬間までが勝負だと覚えておくと、理解が深まります。
ニュートラルコーナーの意味
ダウンが宣告されると、攻撃した側のボクサーはニュートラルコーナー(白いコーナー)に下がる必要があります。
これは、ダウンした選手の安全を確保する、そしてカウントや判断を妨がないための重要なルールです。
相手がすぐにニュートラルコーナーへ移動しない場合、レフェリーはカウントを一時中断します。その結果、ダウンした選手に回復の時間が与えられることもあります。
この場面を知っていると、「なぜカウントが遅れたのか」「なぜ注意が出たのか」が理解でき、観戦がより面白くなります。
再開後の動き
試合が再開された直後の数十秒は、ダウンシーン以上に重要な見どころ。
注目したいポイントは以下のとおりです。
- ガードがしっかり上がっているか
- 足の運びが安定しているか
- 無理に打ち合おうとしていないか
ダウンを奪った側は一気に勝負を決めにいくことが多く、奪われた側は慎重な立ち回りを選ぶ傾向があります。
この攻守の切り替えを見ることで、試合の流れや選手の戦略がより分かりやすくなります。
印象に残る衝撃的なダウンシーン

ボクシングのダウンシーンでは、数々のドラマが生まれてきました。印象に残る衝撃的なダウンシーンを紹介します。
井上尚弥VSルイス・ネリ
| 試合名 | WBC・WBO世界スーパーバンタム級タイトルマッチ |
| 日時・場所 | 2024年5月6日・東京ドーム |
| 勝者 | 井上尚弥(6ラウンド・TKO) |
挑戦者であるルイス・ネリ選手は、左フックを打ち込み先制ダウンを奪取。井上尚弥選手にとってプロ初ダウンであったことから、衝撃が走りました。
その後は井上尚弥選手が2ラウンド・5ラウンドでダウンをとり、試合の流れを自分のものに。6ラウンドの右アッパーからの右ストレートにより、TKO勝ちを決めました。
中谷潤人VSダビド・クエジャル
| 試合名 | WBC世界バンタム級タイトルマッチ |
| 日時・場所 | 2025年2月24日・有明アリーナ |
| 勝者 | 中谷潤人(3ラウンド・KO) |
3ラウンドの終盤、王者中谷潤人選手が左ボディーからのストレートでダウンを奪いました。さらに立ち上がったダビド・クエジャルを攻め、左フックからのKOに。
この圧倒的な試合展開は観客をわかせました。中谷潤人選手はこの試合で30連勝となり、まさに印象に残る衝撃的な試合といえます。
タッタナー・ルワンポンVS小国以載
| 試合名 | スーパーバンタム級8回戦 |
| 日時・場所 | 2025年10月1日・後楽園ホール |
| 勝者 | 小国以載(3-0判定勝利) |
元スーパーバンタム級IBF世界王者小国以載選手とタッタナー・ルワンポンは、2ラウンドに相打ちに。左フックからのダブルノックダウンに、衝撃が走りました。
その後左ボディーを連続でヒットさせた小国以載選手が、判定によって勝利。負けたら最後という覚悟で挑んだ小国以載選手の熱意が、熱いドラマを生んだ試合です。
ボクシングのダウンに関するよくある質問

ボクシングのダウンに関する疑問について、わかりやすく回答します。ボクシングについて理解を深めるために、ぜひチェックしてください。
Q1.ボクサーがダウンする理由は?
相手ボクサーが放つ有効打を受けた影響で体勢を維持できなくなり、レフェリーが試合続行が難しいと判断するためです。
また、試合が進むことでダメージが蓄積。体力が削られ、そこまで強くないパンチでもダウンすることがあります。
Q2.主要4団体でダウンのルールに違いはある?
主要4団体では、ダウンの定義や10カウントなどルールに違いはありません。ただし、
WBA(世界ボクシング協会)の一部地域・試合では、スリーノックダウン制を採用しています。1ラウンド中に3回ダウンした場合、10カウントしなくてもKOが成立するルールです。
Q3.カウント中に立っても試合続行にならないこともある?
10カウント以内に立ってファイティングポーズをとれば試合続行でき、回数制限もありません。ただし、足元がふらついている、意識がないなど危険な状態だと判断された場合、試合は中止されます。
セコンドがタオルを回したり、ドクターが再開不可能と判断したときも同様。セコンドやドクターが試合再開が不可能と判断すればTKOが宣告され、相手ボクサーの勝ちになります。
Q4.ダウンしても判定勝ちになることはある?
KOやTKOがなく判定にもつれ込んだ場合、3人のジャッジによる判定で決着をつけます。ダウンが多いボクサーのほうが劣勢とされ、採点も厳しくなるのが原則です。
ただし、判定における採点は、各ラウンドごとに行われます。特定のラウンドでダウンしても他のラウンドで優勢と判断されれば、判定勝ちです。
ダウンを理解してボクシング観戦をもっと楽しもう
ボクシングにおけるダウンとは、足の裏以外がフロアについた状態を指します。ダウンからのKOや判定への影響は、試合の勝敗を大きく左右する重要な要素です。
激しい攻防からのダウンはボクシングの見どころの一つ。ダウンから生まれるドラマに注目すれば、ボクシングの試合がさらに面白くなります。
そのほか、ENSPORTS fanではボクシング観戦初心者にむけて基本ルールやボクシング興行を観戦する際の目安時間などを解説した記事も公開中。そちらも観戦に足を運ぶ前にぜひチェックしてみてください。